❶曽我さんの活動紹介

曽我さんが8年間、北海道で行なっているアイヌの人々のコミュニティーの中でのリサーチについてお伺いしました。一緒に過ごす中で、侵略した側の人間として何を学び、自分がどのように関係を作れるのか、歴史的に苦しいことがあったとしても、どのように人間同士として共感し合えるものを見つけていけるのか、考えながら送った日々のことを話してくださいました。そしてそこから制作した『秋鮭』(2019年)、『アイヌハンター、モンちゃん』(2020年)、『様似アイヌ料理、熊谷カネさんと、2020』(2020年)という作品を見せていただきました。

◉「感じる知識&地球と作るアート」
曽我さん)私はどれだけ自分の体の声を聞きながら、社会と接することができるか、どうやって地球の声と自分の体の声を聴きながら、作品を制作していけるのか、そして知識を共有していけるのかに興味があります。

◉『秋鮭』(2019年)
曽我さん)世界中の民族から集めたものが展示してあるピットリバース博物館に展示をしました。アイヌ民族の人たちの民具も飾ってあり、その中に鮭の皮で作った民具もありました。私が作った「秋鮭」という作品と対話ができるような形で、そこに展示をしました。日本の政府の調査では、全国でアイヌの人は2万人いると言われていますが、申請できていない人を数えると10万人以上いるのでは、という研究家の人もいます。二十歳くらいの時に、アイヌの音楽に出会い、好きで聞いていました。でも、その歴史や、アイヌの人たちがどのように文化を奪われてきたか、知らなかった。なので、北海道を三ヶ月ほど旅しました。私は東京生まれで、倭人という侵略した側の人間ですが、歴史的に苦しいことがあったとしても、まだまだ改善しなければ行けない状況があったとしても、どうやって、人間として、人間同士として共有したり、共感し合えるものを見つけていけるのか、というところを考えながら作ったのが、この『秋鮭』(2019年)という映像です。

参加者)シャケは実際とったんですか?

曽我)この作品はイギリスに戻ってから作りました。イギリスのお店では1匹で売ってなくて、お腹の中のものを取り出した身だけで売っていて、魚屋さんに頼んでスコットランドから取り寄せました。食用で、海で取られているものなので、皮が薄くて作りづらかったです。川を登ると、シャケの皮が厚くなって、靴作りに最適になるので、アイヌの人たちは本来川のシャケを使います。

参加者)現地で作らず、イギリスで映像を作ったのは、何故ですか?

曽我)現地にいるときは、フィールドワークをしている、というよりは、生活を移して、日常を送っているような感覚です。地元の人たちとの時間が大切で、制作をしようとすると客観性もないし、一人でいる時間が勿体無いので、いわゆる制作活動や編集活動はしません。ある意味、そこで生活していること事態も制作の一部と考えています。離れて、イギリスに戻ってくると、ここが大切だったんだな、と改めて気づくことができます。フィールドワークしてる間は、割と感情に溢れていて、言いたいことがうまく整理できないので、距離は自分の中でとても大切です。

参加者)秋ジャケの靴がありましたが、例えば動物の毛皮を使って何か作ったり、法に合わせて実用的にというのは見たことあるんですが、シャケは実用性的にはどういうあれなのか、というのをちょっとお聞きしたいなと。

曽我)川を登ってきたシャケの皮はすごく強いので、1シーズンぐらい履けるくらいの強さはあったようです。着物も作ったりしていたらしいです。シャケの皮だけだと痛いんですが、藁を入れて柔らかくして使っていたそうです。

参加者)先ほどの映像に文字が付いてましたが、どうやってつけたんですか?映像の中で、字幕が消されたり、足されたり、編集されていく様子が印象に残りました。

曽我)北海道に行った期間、日記を書いていたんです。それを見返したり、体験を思い出しながら、コンピューターをスクリーン録画しながら、思いついたことを書いていきました。文字は、普通は添削された最終バージョンしか世に出ない。でも、こう言いたいとか、この言い方の方がよかったな、という編集のプロセスも含めて、全部出そうと思って、書きました。

◉『アイヌハンター、モンちゃん』(2020年)
曽我さん)2015年から毎年北海道に行くようになったんですが、モンちゃんという友達ができました。アイヌ的な狩猟の方法を身につけている人です。2、3年間、友達として魚釣りに行ったりとかしていたんですが、ある時、モンちゃんの鹿とりの様子が見たくて、山に連れて行ってもらいました。アイヌハンターと普通のハンターは何が違うんだろう、と思ったからです。同じ空気を吸って経験することで、モンちゃんの視線を深く体験することができたので、イギリスに帰ってから、モンちゃんと山に行った時のことを作品にしました。私の中では、友達作りが本当に大切です。普通の理由ですが、他者として見るのではなく、気持ちを近くで感じられる相手として、いろんな知識を共有できるので、友達作りを大切にしています。

◉『擬似アイヌ料理、熊谷カネさんと、2020』(2020年)
曽我さん)ある時熊谷カネさんというアイヌ女性と友達になりました。この方から七ヶ月間、アイヌ料理を学びました。私はどうして自然破壊が起こるのか、というところに興味があるのですが、人の気持ちと自然と文化ってどう関わり合っているのかという事に着目しました。熊谷さんのアイヌ料理って現在でもスーパーから買うものがほぼなくて、自然を大切にすることが料理の一環であって。カネさんは、カゴメや貝と会話をします。そういうところでも、友達作りは大切なんだと気付きました。この一連は、写真に撮ったり、映像にしてまとめています。熊谷カネさんのお母さんの歌声が後ろで流れています。

❷中川裕先生の「語り合うことばの力」を読んでみて

曽我さんから事前に『語り合うことばの力』(2010,岩波書店)の抜粋箇所を共有していただき、それを読んだ感想や気づきを皆で話しました。

参加者)時代は変わるものなので、どうやって残すのか、何を残すかは難しいなと思う。

曽我さん)残す問題って難しいですよね。アイヌ文化だけじゃなくて、何かを表現したいとか、ものづくりをしている人に共通している問題だと思います。例えば、現代では契約書が話し言葉より力を持っていたり、芸術も売れた方が価値がつくとか、そういうものが力を持つので、もっと資本主義とか国家主義じゃないところで、どうやってものを残せるか、とか考えると、私たちが暮らしている現代社会の価値観だと見落とされていることは多いんだろうな、と思います。

曽我さん)皆さんは、残したいものとか、この記録の仕方が有効的なんじゃないか、とか考えたりしますか?

参加者)人類学を学んでいます。パチャママという呼び名もあって、アイヌについても、カムイを初めて勉強して、やっぱり、残していく、というのはすごい難しいです。パチャママみたいに、法律で、自然を法人を通して守っていくとか、そういうのはちょっと違うな、と思っていて、そういう、現代社会的な、システムに取り込まれて翻訳されていくと、それはちょっと違うものになってしまうのかなと思うところがあるんですよね。自分も自然環境のフィールドワークをしているので、感じることをどう記録していけるのか、難しいなと思っていて。野鳥に詳しい人で、双眼鏡がなくても、あそこに30匹の何がいるかわかる人がいるんです。どうやってわかるの?って聞いたら、なんとなくわかるって。そういう感覚的なものは、自分が一緒に感じるのも難しいし、どう記録したりすればいいのか、悩んでいます。

曽我さん)アイヌのおばあちゃんと活動していると、私が見えていないことを見えていたりして、山を歩くときも、人が作った道じゃないところを歩くことが多かったんですが、獣道というんですかね、動物が作った道を見極めて、走っていくことができたりして、私からしたら、よく見えたねって。些細なことも、同じ空間にいて、体感を使って見ないと伝わらないので、本を読んだだけではわからないことの方が多いなというのはすごく感じた。記録をするのは難しいチャレンジですが、後半は、どうやって、表現するとか、物語を伝えれるか、どうやってまず自分の身体と繋がることができるか、というエクセサイズ的なことをしたいと思います。

❸『大切なもの』

事前の「皆様の身近にある大切な物1点を当日会場に持ってきて下さい。」という曽我さんの呼びかけに応じて、参加者が持ち寄ったものと一緒にワークを行いました。

◉曽我さんから参加者へ、事前の呼びかけ:
皆様の身近にある大切な物1点を当日会場に持ってきて下さい。あまり深く考えずに、と同時に、家の外に持ち出しても安心できる物でお願いします。ワークショップの中で行う表現方法のインスピレーションに使います。

曽我さん)1人づつどんなものをお持ちになったか紹介していただいてもいいですか?
参加者1)今日身につけているマフラーです。
参加者2)この仕事の他に、庭を作る仕事をしています。その道具です。玄関にあったのを、持ってきました。毎日研いでます。
参加者3)沖縄の西表島で拾った「モダマ」という世界最大の豆です。それをキーホルダーにして持ち歩いています。
参加者4)岡田裕子さんのインスタレーションの作品をたまたま買いました。相田誠さんの奥さんです。
参加者5)爪切り。実家にあったものをそのまま持ってきて使っています。人生ほぼこの爪切りと過ごしているなと。
参加者6)布です。今日首に巻いてきたのは、古いインドのサリーを掛け合わせたもの。人間は生まれた時に赤ちゃんに包まれるし、死ぬときも包まれる。大事なものも布で包みます。自分の体を布で包んでいたい、という気持ちがあります。
参加者7)ルーペです!
参加者8)子供の絵です。リースを見て描いてました。子供の絵がすごく好きで、とってあります。
参加者9)山岳民族の刺繍。使っていたものを物々交換したものです。あと、銛です。
調子よく使っていましたが、壊れてしまって。それをとっておいています。

①持ってきたものを手にしながら、自分の身体の声を聞くエクセサイズ(5分間)
1、座りごごちがいい姿勢になってください。
2、持ってきたものを手に、目を半分閉じ、薄目で見えるものに集中してください。
(1分)
3、目を閉じて、まぶたの裏に見える映像に集中してください。(1分)
4、聞こえる音に集中してください。(1分)
5、匂いに集中してください。(1分)
6、最後に、大切なものを持っている、自分の体感に集中してください。(1分)

曽我さん)ゆっくり目を開けてください。目をつぶって、自分の体の感覚に集中していただきました。私がフィールドワークで行う時、体で感じること、「楽しい」とか、「居心地がいい」とか、「なんか違うな」とか、体が発する感覚に耳を向けるようにしているんですが、そうすることで、先入観とか、社会の常識にとらわれずに、目の前にあるものに向き合えるんじゃないかと思っています。なので、こうやって、自分の体の声を聞く練習をします。

②大切なものとの関係性をお互いに紹介する(10分間)
二人一組になり、自分とものの関係性がどういったものなのか、ペアで話してみる。

③相手の大切なものとの関係性を皆に紹介する
お互い、相手の方がどういう体感を持って、そのものとの関係性を持っているのかを、他の参加者にも紹介する。

曽我)こういう状況で、自分の感覚に集中するのは難しいかもしれませんが、自分の感覚に集中できるタイミングがあれば、ぜひしてみてください。人にどう思われるか、気にして自分の体感を無視してしまうことが多いので、そうじゃない瞬間を作るのは大切だと思っています。

④ものを通してどう感じたか、言葉を使わずに表現してみる
今度は持ってきたものとの関係性を、言葉を使わずに表現してみることを試みました。

曽我さん)目を閉じて感じた時の体感と、パートナーの方と話した時に気づいたこと、「なんか捨てられない」という感覚とか、「偶然自分の手元に来た」「布を持ったら安心する」みたいなキーワードが出てきたと思いますが、そのキーワードを思い出して、言葉以外で表現してみてください。音でもいいし、動きでもいいし、イメージでもいいです。

❹ふりかえり

曽我)言葉以外で表現してみるのは、どんな感じでしたか?

参加者)私にとっては難しかったです。抽象的な概念から始まりますよね。解釈したくなる感じがしました。

曽我)日々本を読んだり、書くことが、普段の学校教育の中では重要視されているので、感覚で感じるものを表現することが切り離されてしまうんですが、今日をきっかけにみなさんが制作されたりする時に、ちょっと自分の体の声を聞いてみようとか、漠然としていてもいいので、抽象的なことを大切にしていただきたいなと思っています。

参加者)自分の体の感覚はすごく大事で、体の方が、自分の頭より大事なことを知っている、と思うんですけど、やっぱり、普段の生活だと頭を使いざるを得ないことが多くて、頭を使うとだいたいよくない方向に行くので、私も体の感覚をすごく大事にしたいんですけど、それが、すごく難しい、今の社会だと難しいことだと感じています。

曽我)同感です。生きていくにはやっぱり楽しい方がいい。なのでなるべく体が楽しいと思えることを、毎日したいなと思っています。リサーチとかフィールドワークは真面目なことと捉えられがちなんですが、いや、楽しくていいじゃん、と私は思っています。みなさんもぜひ、体が楽しいと思えることに、集中してみてください。趣味とか、お仕事、制作とか表現するときも、体にとって「いい感覚」というのを考えてみてください。